1997年に登場したアシックスのキッズシューズ「スクスク」。より子どもの足に合った歩きやすい靴作りを目指し、「土の上のはだし」という開発コンセプトが掲げられたのは2000年のこと。今なお継承されているこのコンセプトをあらためて振り返るとともに、スクスクならではの特徴や子どもの靴選びのポイントについて、長年子どもの足を計測・研究しているアシックススポーツ工学研究所の野々川 舞に聞きました。
はだしのように自由に、動きやすく
――1997年の登場以来、アシックスのキッズシューズの定番ラインとなっている「スクスク」ですが、その開発コンセプトである「土の上のはだし」には、どのような意味や想いが込められているのでしょう?
野々川:もともとスクスクは大人用靴のノウハウを応用して作られていたのですが、より子どもの足に合わせた商品作りをしようという動きの中で、2000年に生まれたのが「土の上のはだし」というコンセプトでした。まるで土の上をはだしで歩いているかのように自由で動きやすい靴にするべく、「足ゆびをしっかり使って踏ん張れること」「はだしのように足なりに曲がること」「土の上を歩くような適度なクッション性があること」「足がサラサラとして快適であること」という4つのポイントを開発の軸として今に至ります。
――靴の開発に「はだし」という視点を取り入れたのは面白いですね。
野々川:「はだし」という言葉が出てきた背景には、「形状もサイズも合っていない靴を履かせて子どもの足が変形してしまうくらいなら、何も履かずにはだしで歩かせたほうがよっぽどいいのでは」という議論があったそうです。そこからシューズブランドとして「子どもの動きや成長を阻害しない“はだしのような”靴を作ろう」という着想につながり、このコンセプトが立ち上がったんです。子どもの足の健康のために「はだしのような靴を」という考え方は25年が経った今も十分有効ですし、研究者の立場から見ても理にかなっていると思います。
――そんなスクスクについて、機能面での特徴をあらためて教えてください。
野々川:まず大人と子どもでは足の大きさだけでなく、形状も違うという点がしっかり押さえられています。大人の足はスリムで先端が細いアーモンドのような形をしていますが、子どもの足は扇のように先が広がった形をしているので、スクスクは先端がやや丸みを帯びたデザインになっています。また筋力が弱い子どもでも足なりに靴が曲がるように、薄くてしなやかなソールを採用したり、靴の内側の凹凸をなるべく減らして足への負担や痛みを少なくする工夫もされています。靴を履くことによって生まれる違和感を可能な限りなくすことで、「はだし」に近い履き心地を目指しているんです。
――キッズシューズというのは、大人用の靴のミニチュア版では決してないんですね。
野々川:大人と子どもでは足の大きさだけでなく、体重や筋力、歩行経験などさまざまな面で違いがありますからね。スクスクの開発過程では、実際に子どもにはだしで歩いてもらった上で、靴を履いても同じような歩き方や体の動きができているか、バランスを崩したり歩きにくそうな様子はないかなどを何度も計測・検証しています。
健康な足を育むために、適切なサイズの靴を
――野々川さんは足の計測・研究が専門ですが、近年の子どもの足特有の傾向や驚いた発見などはありますか?
野々川:近年の子どもの特徴としては、コロナ禍の影響で、遊ぶ場所が変わったことや、遊ぶ機会そのものが減ったことで、体力低下の傾向が挙げられます。足特有の傾向で言えば、私自身、足の計測に5年ほど携わっていますが、データを見ると足囲(親ゆびと小ゆびの付け根の張り出した部分の周囲の長さ)が細い子どもの割合が増加傾向にありますね。また、科学的な裏付けはまだできていないのですが、子どもの足の大きさ(足長)が親御さんからの遺伝に起因している可能性や、身長がぐっと伸びる直前に足長が伸びるという傾向がデータから見て取れます。もしかすると足長をこまめに測ることで「そろそろ成長期が来るかな」という見当がつくようになるかもしれません。
――野々川さんもお子さんがいらっしゃるとお聞きしました。実際にスクスクは履かせているのですか?
野々川:研究を通じてたくさんの子どもたちの足を見てきましたが、自分の子どもの足の成長速度にはあらためて驚かされます(笑)。うちの子は1歳2カ月で歩きはじめ、そのタイミングでスクスクを履かせました。初めての靴に最初は少し戸惑っていましたが、やわらかいソールのおかげか、すぐに慣れて歩くことができました。それまでハイハイやつかまり立ちをしていた子どもにとって、歩くことで自分の足に全体重がかかるのは初めての経験。そんな足に余計な負担をかけないためにも、適度なクッション性があり、軽くてしなやかな靴を履かせるのはとても重要だと思います。
――小さなお子さんがいらっしゃる方に向けて、靴を購入する際のポイントがあれば教えてください。
野々川:まずはつま先のゆとりですね。かかとがフィットした状態で靴の先端部分を指で押し、つま先との間に5mm〜1cmの余裕があればベストです。外から確認するのが難しい場合は、中敷を外してその上に足を乗せてみるのも手です。親ゆびと小ゆびの付け根のあたりも履いた状態で触ってあげて、パンパンになりすぎてないかチェックしてあげてください。
――足が大きくなるのを見越して、つい大きいサイズの靴を手に取ってしまう親御さんもいるかもしれませんが……?
野々川:それはやめたほうがいいですね。ゆるいと靴の中で足が動いてしまうので、それをなんとかしようと無駄に踏ん張ってしまい、最悪ケガにつながってしまう可能性もあります。また、サイズが合っていない靴だと場合によっては5本のゆびがしっかりと地面に接地しない「浮きゆび」という状態になってしまうおそれも。浮きゆびは足のゆびで地面をつかんだり踏ん張る力の低下につながり、運動能力に影響する可能性もあるので注意が必要です。
――健康な足を育むには、常に適切なサイズの靴を履かせることが大事なんですね。
野々川:子どもの足は日に日に大きくなっていきますが、小さいうちは、靴のきつさやフィット感の良し悪しをうまく伝えることができません。だからこそ、常に親が子どもの足の成長を気にかけ、本人が不快感や痛みを感じる前にサイズアップさせてあげるのがおすすめです。アシックスでは、お子さんの足のサイズ、身長、体重を登録することで足の成長を予測し、靴がサイズアウトするタイミングを事前にお知らせする「ASICS STEPNOTE」というデジタルサービスを公開しています。子どもの足の健康のために、ぜひご活用いただきたいです。
――最後に「土の上のはだし」というコンセプトをふまえて、キッズシューズの今後の展望をお聞かせください。
野々川:子どもたちがのびのびと歩ける靴を提供していくために、25年にわたって不変だった「土の上のはだし」というコンセプトは、今後もこれまでどおり続けていくべきだと思います。近年の技術革新は目覚ましいので、この間にも以前に見えなかったものが可視化できるようになっています。研究者としても、新たな成果がより良い製品開発に繋がる時代になってきていると感じています。それはキッズシューズもしかりです。子どもの足の成長と同じように、キッズシューズにも進化の伸び代はまだまだあるはずですから。
PROFILE
野々川 舞(ののがわ まい)
1983年、愛知県出身。2008年に名古屋大学情報科学研究科を修了し、アシックスに入社。配属されたスポーツ工学研究所では主にコンピュータシミュレーションを専門とし、競技系スポーツシューズの構造設計や機能評価、足形の計測手法の開発および足形データの分析業務に従事。現在はフットサイエンス研究チームのマネジャーとして、足形データの分析業務、キッズシューズやウォーキングシューズの研究開発を行う。本稿に登場した「ASICS STEPNOTE」の開発者のひとりでもある。
Edit+Text: Taro Takayama(Harmonics inc.)







