海外初出展の担当者が語る<br>PITTI IMMAGINE UOMO 109 REVIEW
フィレンツェでしるした第一歩
PITTI IMMAGINE UOMO 109 EVENT REVIEW

#Story 2026.03.18

海外初出展の担当者が語る
PITTI IMMAGINE UOMO 109 REVIEW

2026年1月、イタリアのフィレンツェで開催された世界最大級のメンズファッション合同展示会「PITTI IMMAGINE UOMO 109」に出展したASICS Walking(アシックスウォーキング)。初の海外出展を振り返る今回は、アシックス商事プロダクト戦略チームの三浦裕司とブランド戦略チームの鈴木徹によるクロストークで、出展までの舞台裏や現地での手応えをレビュー。事業戦略本部長の松井宏彰のコメントを交えて、海外出展プロジェクトを推進したキーパーソンたちのリアルな声をお届けします。

アシックスウォーキングを見つめ直すきっかけに

——まずはPITTI IMMAGINE UOMO 109(ピッティ・イマージネ・ウオモ 109。以下、PITTI)に出展した経緯と、本番までの流れを振り返ってもらえますか?

鈴木:日本国内ではアシックスウォーキングをご存知の方も多く、ビジネスパーソンをはじめとするお客様から商品への高い評価もいただいています。ただ、ファッションの分野においては、我々の認知度はまだ低いと感じていました。今までリーチできていない層にアシックスウォーキングを知ってもらうにはどうしたらいいかをずっと思案してきた中で、1年半ほど前からヨーロッパのファッションウィークへの出展を検討しはじめたんです。

三浦:まずはリサーチとして、パリやミラノなどの展示会に鈴木と私で視察に行きました。海外の展示会は販売や商談の場でもあるのですが、今回の私たちの目的はアシックスウォーキングというカテゴリーの認知拡大と価値の向上。そうした場としてふさわしい環境だと感じたのが、年に2回、フィレンツェで開催されているPITTIでした。もともと私はイタリアでシューズデザイナーをしていて、自身のブランドで出展したこともあります。ですのでPITTIのイメージはある程度つかめていました。

アシックス商事プロダクト戦略チーム 三浦裕司

鈴木:イタリア語も堪能なので、現地の担当者と不自由なく意思疎通できる点でも三浦の存在は大きかったですね。

三浦:とはいえ、トントン拍子で出展できたわけではありません。まず出展の申し込みに際してPITTIのディレクターとやり取りしたのですが、そこで海外でのアピールという面で課題が見つかりました。

鈴木:海外ではアシックスウォーキングはもちろん、アシックスが革靴を作っていることすらほとんど知られていないんです。国内での実績や知名度をベースにしたこれまでどおりのアピールの方法では、海外の方々に伝わらないのではと。

三浦:そのディレクターがアシックスのファンだったこともあり、イタリアではスポーツブランドとして人気のあるアシックスが作る革靴をどう訴求するべきか、いくつかヒントをいただきました。そうした客観的な意見もふまえ、今回は「アシックスウォーキングはどのようなカテゴリーなのか」という根源的なところから洗い直し、我々の強みを訴求しようと試みたんです。

——PITTIで発信することにしたアシックスウォーキングの強みとは何だったのですか?

三浦:アシックススポーツ工学研究所を擁し、機能性を追求した商品開発を行っている点。その上でスニーカーからドレスシューズまでラインアップし、さまざまなスタイリングに対応している点ですね。実際のブースでも分解したドレスシューズとスニーカーのソールパーツを中央に展示し、スポーツシューズ由来のテクノロジーを前面にアピールしました。

鈴木:これまでアシックスウォーキングは、アシックスブランド内の他カテゴリーとの差別化を考え、自分たちなりのブランディングを進めていました。しかし現地のディレクターの話を聞いて、海外の人たちは私たちを「アシックス」という大きな枠でとらえていることに気付かされたんです。

三浦:そこで今回は基本に立ち返り、「アシックスが作っている革靴」という文脈をしっかり認識してもらうことにポイントを置いたアピールを心がけました。

鈴木:海外では今、アシックスの知名度や市場がどんどん広がりを見せているので、その流れをアシックスウォーキングもうまく活かしたいという想いもありました。こうして本番前に自分たちの強みや方向性、今後のブランディングについてあらためて考え直せたのはよかったですね。アシックスウォーキングを見つめ直す意味でも、PITTI出展はとてもいいきっかけになってくれたと思います。

アシックス商事ブランド戦略チーム 鈴木徹

——アピールの方向性が固まり、出展に向けた具体的な準備に入ったのはいつ頃だったのでしょう?

鈴木:昨年(2025年)の10月ですね。そこから1月中旬の本番に間に合うよう急ピッチで準備を進めました。ブースの設計・デザインをはじめ、現地で展開するクリエイティブの制作、展示するシューズの準備……など、本当にあっという間の3カ月を過ごしました。

三浦:国内での出展とは勝手が違うので、すべてがチャレンジでした。ブース設計は日本で行いましたが、実際の施工はイタリアの業者さんに任せることになる。彼らと何度もミーティングを重ねたものの、無事に完成して出展にこぎつけられるのか、現地に行くまで常に緊張感がありました。

——出展にあたって他にも苦労したことはありますか?

鈴木:準備が必要なことの割り出しと計画が大変でした。日本とイタリアの物理的な距離に加え、円安によるコスト増、年末年始やクリスマスホリデーによる準備時間の減少など、普段の出展時よりも難しい条件が重なりましたからね。準備の過程で発生したトラブルや課題にどう対応するかも、その都度手探り状態でした。

三浦:特に心配したのは、ロストバゲージですね。ブースに並べるシューズはすべてトランクに詰めて、現地入りするメンバーである私と鈴木、事業戦略本部長の松井、代表取締役の小林の4人で手分けして運んだのですが、そのうちひとつのトランクが手元に届かなくて。結果的に出展に影響を及ぼすには至らなかったのですが、これも海外出展ならではのハプニングと言えるでしょうね。

期待と不安で迎えたPITTI本番

——そうして無事にPITTIの初日を迎えたときの心境はいかがでしたか?

鈴木:イベント自体がどのような雰囲気なのか、来場者はどのような反応をするのか、何を質問されるのかなど、見当がつかないことだらけで正直緊張していました。三浦はイタリア慣れしているので余裕があったかと思いますが。

三浦:ブースがこちらの思いどおりの完成度になったので、うまくいきそうな確信がもてましたね。イベント全体の来場者が増えるにつれて私たちのブースで足を止めてくれる人も増え、今回初めてアシックスウォーキングを知ったというバイヤーやインフルエンサーからもポジティブな反応をもらうことができました。

鈴木:これだけのテクノロジーを詰め込みながらこのシルエットが出せているのはすごい、というコメントは多かったですよね。アシックスウォーキングとして常々発信している「品格と機能性の追求」という面をしっかり感じ取っていただけている印象でした。出展にあたって私たちが特にこだわったシューズの分解展示も功を奏したと言えるでしょうね。

三浦:革靴の世界では、100年以上前に開発された「グッドイヤーウェルト」という製法が今なお良い靴だとよく耳にします。ところが欧米の老舗革靴ブランドとは異なる文脈にいる私たちが、スポーツテクノロジーを応用して革靴に新たな進化をもたらしている。その点が、現地のバイヤーをはじめ革靴に詳しい来場者には目新しく映ったようです。

鈴木:革靴はもちろん、スニーカーの評判も上々でした。とりわけ発売に先駆けてもち込んだ新作「RUNWALK TRAD SNEAKER LUX」は、RUNWALKを彷彿とさせる上質なキップレザーを使ったり、アッパー部分の取り外し可能なキルトや通気孔(メダリオン)にクラシカルなモチーフをあしらうなど、ドレッシーさとスポーティーさをうまく融合した点が注目され、「オリジナリティーがあってすごく面白い」と評価していただきました。

三浦:PITTIらしいなと感じたのは、目の肥えた来場者が多いということ。ファッションの本場だけあって、「ラスト(靴型)のここの形状をもっとこうした方が…」といった細かい意見をいただくこともあり、フラットに意見交換できたのも有意義でしたね。

鈴木:今回、興味をもっていただいたバイヤーの中には「すぐにでもうちの店で扱いたい」という方もいらっしゃいました。今回はアシックスウォーキングを知ってもらうための出展だったので、商談の申し出はお断りさせていただきましたが、それだけ手応えを実感できる充実した4日間でしたね。

——では最後に、成功裡に終わったPITTI出展を経て、アシックスウォーキングとしての今後の展望を聞かせてください。

鈴木:この貴重な経験を点で終わらせてはいけないなと。PITTIに出展したことは、社外にはもちろん、社内に向けても重要なアピールになったと思うんです。今後も海外起点でのブランド発信を続けていくことによって、普段のモノ作りにおける目標やモチベーションも変わってきます。そうしてよりクオリティの高い商品が生まれることで、ひとりでも多くの方に「アシックスウォーキングって歩きやすいのはもちろん、かっこいいしクールだよね」と言ってもらえることを目指したいです。

三浦:「アシックスウォーキング」というのはとても端的なカテゴリー名だと思うんです。でもそのシンプルさも手伝って、外国の方々に「アシックスが手がける、歩くことに特化したカテゴリー」としてこの固有名詞がすぐに認知され、受け入れてもらえた実感がありました。PITTI出展を通じて、アシックスウォーキングを知ってもらうという一歩は確実に踏み出せたので、今後もカテゴリーの価値をアップデートさせながら、それを日本国内だけでなくグローバルに浸透させていきたいと考えています。

松井本部長コメント

初の海外出展ということで緊張もありましたが、4日間を通じて世界各国から集まった大勢の来場者にブースをご覧いただき、今後に向けた手応えを得ることができました。ありがたいことに私たちの靴が欲しいと言ってくださる方も多く……やはり海外での販売チャネルは必要であると再認識しましたね。また次回以降の海外出展では、メンズだけでなくレディスも訴求できる場を開拓したいです。
私たちは「健全な身体に健全な精神があれかし-“Anima Sana In Corpore Sano”」 という創業哲学と、「Sound Mind, Sound Body」というブランド・スローガンのもと、日常生活のさまざまなシーンにおいてアシックスがそばにあることを目指しています。歩くシーンやビジネスシーンでアシックスウォーキングが大きな存在感を発揮できるよう、今後も積極的に国内外へのアピールを続けていきます。

アシックス商事株式会社
国内事業統括部 事業戦略本部 本部長
松井宏彰(まついひろあき)
1997年、アシックス商事株式会社入社。2012年まで大手GMSを対象としたシューズ事業のセールスに従事したのち、以降はマ―ケティング部、アシックスプロダクト本部、事業戦略本部などを歴任しブランドおよび事業全体の業務に従事する。

PROFILE

アシックス商事株式会社
国内事業統括部 事業戦略本部 ブランド戦略部 プロダクト戦略チーム
三浦裕司(みうらゆうじ)
イギリスでシューズデザインを学んだのち、イタリアでシューズデザイナーとして活躍。2017年に株式会社アシックスに入社し、現在はアシックス商事株式会社でメンズシューズを中心に商品企画に携わる。

アシックス商事株式会社
国内事業統括部 事業戦略本部 ブランド戦略部 ブランド戦略チーム
鈴木徹(すずきとおる)
2009年、アシックス商事株式会社入社。メンズシューズのデザインに携わったのち、2020年より「texcy luxe(テクシーリュクス)」のプロモーションに従事。以降、アシックスウォーキングのブランディングやプロモーション施策全般を担当している。
Photo : Kohei Watanabe/Kae Homma
Edit+Text : Taro Takayama(Harmonics inc.)