#Story 2026.06.25
RUNWALK 7を手がける匠の現場
ASICS Walkingに根付くジャパンメイドへのこだわり
2025年7月に登場したRUNWALK 7は、「品格と機能美の追求」を開発コンセプトに掲げ、これまで培ってきたウォーキングのテクノロジーにドレスシューズとしての品格を融合させた企画でした。シューズを作り上げるために重要な役割を担ったのが、日本のものづくり特有の繊細さや丁寧さ、そして高い技術力です。今回はジャパンメイドを掲げる「RUNWALK 7 LS」の製造現場を通じて、アシックスウォーキングのものづくりへのこだわりと、それを支える人々の想いに迫ります。
品格と機能美の融合を担う小さな町工場
アシックスのランニングテクノロジーをウォーキング向けにアレンジし、高い機能性を有したドレスシューズとして誕生したRUNWALK。1994年に初代が登場して以来、トレンドの変化やテクノロジーの進化とともにモデルチェンジを重ね、2025年には11年ぶりの新作となるRUNWALK 7が発売されました。
RUNWALK 7の開発コンセプトは「品格と機能美の追求」。より端正な佇まい、より美しい仕上げといった気品や外観の追求と、長年培ってきた快適性や歩きやすさを融合させて、RUNWALKのイメージを一歩先へ進めることが命題とされました。
その実現にあたって鍵となったのが緻密な作業と製造工程です。RUNWALK 7 LSは「ジャパンメイド」という価値に重きを置いた同シリーズを代表するモデル。その製造においては、より洗練された外観をもたらす細かいミシンステッチや、美しい陰影を生む吹き付け作業など、従来モデルにはなかった技術が求められることに。そこで生産拠点を国内工場とし、日本の熟練した職人による手作業での仕上げを採用。機械だけでは生み出すことが難しい細やかなニュアンスを表現し、美しいシルエットやつや感、陰影を一足一足に施していく。RUNWALK 7の品格と機能美という価値は、既存のウォーキングテクノロジーと細やかな手仕事の融合によってもたらされたのです。
そんな手仕事を担うのは、埼玉県北部、群馬県との県境の街にある株式会社 大堰。40年以上にわたりアシックスのウォーキングシューズを作り続けている工場で、その技術とウォーキングテクノロジーへの深い理解にアシックスウォーキングは長年厚い信頼を寄せています。

出迎えてくれたのは、2代目社長の宮内和広さん。工場内に足を踏み入れると、そこには何十年にもわたって使い込まれた機械の作動音が響き渡り、多くの工程で必ず人の手が入る昔ながらの町工場のような光景が広がっていました。
「先代社長の頃にアシックスさんとのお付き合いがはじまり、ペダラの製造を開始したのは1982年のこと。やがて我々はアシックスさんのウォーキングシューズの製造に特化するようになりました。アシックスさんのシューズテクノロジーは随一だと思っていますし、ものづくりへのこだわりも強い。そこに私たちが培ってきた靴の製造技術が融合し、二人三脚の信頼関係が続いてきたんです」
株式会社 大堰 代表取締役社長 宮内和広さん

手作業を大切にする革靴づくりの現場
アシックス商事のエキスパートが丹念に設計したラストをもとに、この工場では革を裁断するためのパターン(型紙)を起こす工程から、組み立て、箱詰めまでを担っています。
まず、工場2階の企画開発室で行われていたのは、パターンやサンプルの製作といった靴づくりの基礎となる工程。PCや最新鋭の機材ではなく、カッターやシャープペンシル、使い込まれたミシンといった道具を使用し、職人の手で丁寧に作業が進められていました。


工場の1階で行われる組み立て工程では、縫製されたアッパーをラストにかぶせて成型する吊り込み作業、シワ取り、革にシューズの形状を記憶させるハンマリング、ソールを貼り合わせる接着剤を馴染ませるための起毛作業、接着剤の塗布、ソールの圧着、仕上げなどおおよそ10〜15の工程が手際よく進んでいきます。

中でもアシックスウォーキングが求める品質を具現化するため、熟練の技を要するのが吊り込みとハンマリングです。

「トウラスター」という機械でつま先の吊り込みを担当する職人さん曰く、「余計なシワができないように、ラストを中心線から寸分違わず機械にセットする必要があります。長年の経験と勘で、吊り込みの圧力も一足ずつ微妙に調整しているんです」。また靴のサイドの吊り込みは、足を入れる履き口のラインを揃えるため、機械は使わず手作業のみで行うこだわりよう。
ハンマリングは、熱と蒸気でシワを伸ばしたのち、ハンマーで革を叩き込んで繊維を断ち切りながら、ラスト本来の形状を記憶させる作業る作業です。RUNWALK 7の端正なシルエットを表現する上でもキーとなっている工程です。
「加熱とハンマリングで革をいじめることで、ラストの形状にぴたっと馴染んでいくんです。『靴』という字は『革を化かす』と書きますよね。その字のとおり、ハンマリングの打ちどころや強弱を巧みにコントロールしながら、革をより良い靴へと化かしていくわけです」

品格を宿すための最重要工程
先述のとおり、RUNWALK 7 LSやRUNWALK TRAD SNEAKERの製造においては、より高い技術を要する特別な仕上工程があります。アシックスウォーキングが目指す品格を実現するために新たに導入された、吹き付けによる陰影付け、磨き上げ、つや出しといった工程がそれです。

この2モデルの仕上工程に携わることができる職人は、大堰の中でたった2人。濃淡仕上げの吹き付け作業を見せてくれたひとりの職人さんによれば、「難しいのは吹き付けるエアの量と染料の量のバランスです」。エアブラシと靴の距離をコントロールしながら、細やかな陰影のニュアンスを出していくのだとか。


こうした仕上げ技術を大堰に根付かせ、RUNWALK 7の品格の向上に寄与したのが、カラーリストを務めた経験のある佐藤哲也さん。2023年にはコルテとRUNWALKのコラボレーションに携わり、現在は豊富な経験をベースに大堰のアドバイザーを務めています。
「RUNWALK 7 LSが追求する仕上げのクオリティは、難易度が高いんです。職人の仲間からも、大堰のような量産品の製造工場でそれを再現するのは難しいと言われていました。でもその言葉で逆に『やってやろう』と思いましたね」
大堰アドバイザー 佐藤哲也さん
美しい仕上げのためには染料の吹き付け方だけでなく、シューズそのものの保型が重要だと語る佐藤さん。
「顔のメイクアップでもきちんと骨格に合わせて陰影をつけますよね。靴も同様で、その形状に沿って染料を吹き付ける必要があります。でもその際に、個体によって形状が異なっていたら陰影が安定せず、最終的な靴の仕上がりも美しくなりません。そこでまずは靴の保型にこだわりましょうという話を、宮内社長にさせていただいたんです」
その話を受けて、宮内社長は複雑な胸中だったといいます。
「老舗の小さな工房がやるような作業を量産システムの中に落とし込まなくてはいけなかったので、最初は『何てことを言うんだ』と思いました(笑)。でもアシックスさんとの長年の関係を通じて、RUNWALK 7の製造に携われること、そしてそれをお客様に届けられることは誇りだと感じましたし、うち以外にこれができるところはないだろうという確信もありました」

宮内社長が当初抱いていた懸念は、現場の職人の中にもあったと佐藤さんが振り返ります。
「衝突ではないですが、考えを一致させるのが難しい時期もありました。でもそれはほんの一時だけ。私も職人だったので、お互いにシンパシーとリスペクトが常にあったんです。実際、大堰で働く職人のみなさんは、経験や技術に加えてさまざまな引き出しもお持ちです。だから新しいチャレンジにも前向きに取り組んでくださいました」
こうしてハンマリング工程から見直しを進め、通常の製造業務のかたわら、職人たちは新たな技術の習得とブラッシュアップに励みました。


「佐藤さんにストップウォッチで計測してもらって、それぞれの工程の時間配分を再検討するなど、最初はとても苦労しました。最終的にハンマリングの回数を増やしたりラストを入れておく期間を延ばすなど、保型のための工程に当初の1.5倍ほどの時間をかけることにしたんです」
試行錯誤を経て、量産品でありながら量産品とは思えない美しい仕上がりのRUNWALK 7 LS が完成。その裏側には、長年の経験に裏打ちされた日本の職人たちの技術と誇りに加え、新たなチャレンジや変化を恐れない彼らの柔軟な姿勢があったのです。
品格と機能美の追求という高い目標と、それに応えた日本の技術力。アシックスウォーキングのものづくりは常に、「より良いものを届けたい」という強い想いと、それを必ずや形にしてみせるという心意気の上に成り立っていることが再確認できたのでした。

PROFILE
宮内和広(みやうちかずひろ)
1994年、株式会社 大堰入社。主に企画開発に携わりながら製造現場での仕事にも従事。2012年に代表取締役社長に就任。
佐藤哲也(さとうてつや)
靴専門学校で靴作りを学んだのち、フランスの老舗ブランドでカラーリストとして活躍。現在は主に革靴や革製品のコンサルタント活動を行っており、大堰ではアドバイザーも務めている。
Edit+Text : Taro Takayama(Harmonics inc.)





