PROFILE
すみれ
女優・歌手
東京生まれ、ハワイ育ち。日本と海外を拠点に、テレビ、映画、舞台、音楽など幅広いジャンルで活動し、海外作品にも出演するなど国際的に活躍の場を広げている。日本と海外、双方の文化に触れて育ったバックグラウンドと感性を活かし、自然体で健やかなライフスタイルを大切にしながら、ファッション、ビューティー、ウェルネスなど幅広い分野でも活動している。
はじめて立つことを覚えた瞬間。無意識に一歩踏み出す。呼吸するように当たり前に「歩く」ことを覚えたのは、いつのことだっただろう。フィールドを超え、自らの道を切り拓く人たちが「歩く」ことで出逢う感覚や景色を探る本連載。第16回目でお話を伺うのは10代より女優・歌手・モデルとして多彩なフィールドで活動し、自身の身体と心に向き合うことで表現の幅を広げてきた、すみれさん。今は一児の母として、仕事、家庭、ひとりの人間としての時間を行き来しながら、日常の何気ない発見にも感謝を忘れないでいたいと語るすみれさんが、これから先に見据える景色について、お話を伺う。
一日のはじまり、締めくくるひとときに
陽を映すおおらかな瞳。凛とした佇まいが存在感を放つ。幼少期から異なる文化や環境の間を行き来しながら、女優・歌手、そして一児の母として、「すみれ」という独自の生き方を切り拓いてきた。身体ひとつで舞台に立ち、手足の動き、発する声、視線の向かう先、その息遣いまでもが人の心を動かす表現の世界において、自身の身体や心と向き合う時間を取ることは、いつしか欠かすことのできない日課になっていた。ストイックなトレーニングも軽々とこなす彼女にとって、「歩く」ひとときとはどんな時間なのだろう。
「ハワイで育ったことも関係しているのか、歩いているとリラックスできていると感じます。走るときは『行くぞ』と気持ちをつくらないと動けない日もあるけれど、歩くことならいつでもできる。なんとなく気分が晴れない時や、気持ちを切り替えたい時にも、外に出て少し歩くと息抜きになります。ちょっとした自分へのご褒美だと感じることもあるし、一日の締めくくりにも、朝のいいスタートにもなります。私は走ることも好きですが、どちらかというと歩くほうが自分には合っているのかもしれません」
幼少期には自身の歩き方へのコンプレックスを抱いていた時期もあった。幼い頃から続けてきたバレエの影響で、先生から「バレリーナのような歩き方をしている」と言われたこと。モデルの仕事を始めてから、歩き方を直すよう指摘されたこと。ランウェイのためのウォーキングを練習するなかで、姿勢や足の運びに意識を向けるようになった。
「大学で演技を学んでからは、舞台の最後列にいる人にも表現を届けるため、表情だけでなく身体全体を使う必要がありました。『ムーブメント』という、ヨガでも演技でもなく、身体による表現を学ぶ授業もあり、仕事でも私生活でも、身体をどう動かすか、どう見せるか。そのことをずっと考えてきたのだと思います」
身体を動かすことは、朝の歯磨きのように
仕事や私生活を通じて、身体を動かすことは自然と日常の一部になっていったというすみれさん。
「私自身、昔は『運動しなきゃ』と意識的にしていたことが、今は無意識のうちに運動している。朝に歩いたりジムへ行くこと、筋力トレーニングをすることが、生活の一部になっています。朝の歯磨きのような感覚に近いかもしれません」
とはいえ、忙しい日々のなかで習慣を続けることは簡単ではない。運動を始めるときには、友人やパートナー、トレーナーと約束し、まずは自分を外へ連れ出す。走った先に小さなご褒美をつくることもある。
「30分走った先に好きなジュース屋さんがあるから、そこまで走ろうとご褒美をつくることもあります。運動した内容を日記に書くことも。記録を見返すと達成感を感じるし、『自分はこんなにできたんだ』と思える。記録が自分に少し誇りを持てるきっかけになります。最初は誰かの力を借りてもいいし、自分を少し甘やかしてもいい。続けるためには、そういう方法も大切だと思います」
身体を動かした日は、睡眠の質が変わり、自然と身体にいい食事を選びたくなる。時間がなくても、運動をできるだけ優先順位の高い場所に置く。時には息子をジムへ連れていき、周囲の力も借りながら、自分のココロとカラダを守る時間をつくっている。
暮らす土地とともに変化したもの
変わらないままでいるもの
東京、ハワイ、アメリカ本土、そして再び日本へ。慣れ親しんだ場所から未知の場所へ移り、異なる土地で暮らすたび、身体のリズムだけでなく性格や表情まで変化した感覚があるという。
「緑が多くゆったりとした時間の流れるハワイで育ったからか、おだやかでマイペースなところは今の自分にもつながっていると思います。一方で、自分の考えを言葉にするところは少しアメリカナイズされているのかもしれません。元々、根はとてもシャイだったと思うんです。でもアメリカに行った当初、英語が話せなかったことにフラストレーションを感じていて。話せるようになってからは、よく喋るようになり、とても社交的な性格になったと思います。毎日目にする景色や街のスケールが違えば、ココロとカラダの動き方も変わるのだと思います」
日本に戻ってからは相手に気を配り、場の空気を読む感覚が再び強くなった。話す言語や目にする景色が変わることで、顔つきまで変わったと言われることもある。環境は人を変える。けれど活動を始めた当初を振り返ると、変化を重ねながらも失いたくないものがある。
「当時を振り返ると、アメリカンドリームではないですが、ハリウッドに行きたい、ブロードウェイに立ちたいというハングリー精神が強かった。今も夢はたくさんありますが、人生のチェックリストを少しずつクリアして、以前より落ち着いてきたのだと思います。そしていい意味でも悪い意味でも、まだ成長しきっていない部分や、繊細な部分は変わっていません。英語で『I wear my heart on my sleeve』という表現があります。感情を隠さず、気持ちがすぐに表に出るという意味です。
私は昔から、まさにそういうタイプ。傷つきやすくて、よく泣くし、落ち込むこともある。でも、その繊細さは変わらないほうがいいのかもしれないと思っています」
落ち込むときは、とことん落ち込む。
弱さがあるから、誰かの気持ちに共感できる
明るくポジティブなイメージが強く印象に残るすみれさんだが、仕事のあとには自分の言動を振り返り、落ち込むこともある。以前はそんな自分を単に「弱い」ととらえていた。しかし今は、弱さを言葉にできることも、ひとつの強さだと思えるようになった。
「落ち込むし、引きずるし、泣くことも怒ることもあります。息子にも、安全のために叱らなければいけないときがあるし、仕事のあとに自分の中で反省会をして、パートナーに『ここがダメだった』『この人にこんなことを言ってしまった』と話すこともあります。でも、それで成長しているのだと思います。落ち込むときはとことん落ち込み、次の日によく寝て、おいしいものを食べて、自分で自分の気分を上げていくしかない。アップダウンは誰にでもあると思います」
「本当に弱い時ほど、強がってしまうこともあると思うんです。だから『私は弱い』と言える自分は、意外と強いのかもしれない。自分の弱いところや、うまくできなかったことを振り返るからこそ、もう一度頑張ろうと思える。弱いというより、繊細なんですよね。その繊細さがあるから、誰かの気持ちに共感できる。それは誰にでもできることではないし、私にとってはギフトなのかもしれません」
女優・歌手として、見る人の感情を動かすこと。作品を通して、誰かが「今日も一日頑張ろう」と思えるような力を届けること。人の心を感じ取る繊細さは、表現に携わる自分の役目にもつながっている。一方で、役に深く入り込む俳優の仕事では、他者の感情を自分の内側に抱えすぎてしまうこともある。だからこそ、役に入る時間と、自分に戻る時間を意識的に分けるようにしている。
「俳優の仕事では、難しい役に入り込みすぎて、人と話せなくなったり寂しい思いをしたりしたことがあります。そこで役に入ることと、そこから出ること、そのオンとオフをきちんとしなければいけないと学びました。以前、精霊の役を演じた時は、撮影前に音楽を聴きながらメディテーションをして、『私は光』と繰り返して役に入りました。撮影が終わったら、もう一度身体を動かして自分に戻る。36年生きてきても、「自分とはなにか」と問われるとわからない部分がありますが、どんな時に心地いいか、気分が上がるか。メディテーションや運動を通じて自分と向き合い、観察するようにしています。オンとオフを切り替えることは、仕事でも私生活でも大切だと思います」
「母」である前に、「私」であること。
「すみれ」というひとりの人間として生きる
母になり、自分だけの時間は大きく減った。慌ただしい毎日を送るなかで疲れやすくなり、子どもを寝かしつけながら一緒に眠ってしまう日もある。それでも「人をひとり育てているのだから」と受け止め、パートナーや両親、友人、先生、ベビーシッターなど、周囲を頼ることを大切にしている。
「最初の子どもだから、どうしても神経質になってしまうし、母親としての自分にも厳しくなってしまう。子どものすることを見て、すぐに『これはダメ、あれはダメ』と口を出してしまうけれど、先輩のママたちから『(そんなに神経質にならなくても)大丈夫』と言ってもらうこともあり、育児ももっとゆるくていいのかもしれないと思うようになりました。母も、私を育てるなかで少しずつ丸くなっていったのだと思います。そして、私はママだけれど、その前に『すみれ』というひとりの人間でもある。友達と食事をするときには、母親という役割を少し置いておく。パートナーと出かけるときには、かわいい服を着て、メイクや髪も整えて、ひとりの女性でいたい。いろいろな自分がいていいのだと思います」
歩き方の変化とともに、目に映る景色もまた、変わっていた。モデルとして歩くときは、姿勢や身体のラインをきれいに見せるため、少し上を向いて歩くことが多い。けれど息子と過ごすひとときは、下を向き、花や虫を一緒に探している。
「子どもの世界を一緒に見ていると、いろいろな発見があります。こんなにきれいな花が咲いていたんだ、と小さなものに気づく。何気ない日々のなかにある幸せを、もっと感じないといけないなと思います」
いつか月の上でムーンウォークを。
バキバキのかっこいいおばあちゃんを夢見て
オーロラ、ボリビア、マチュピチュ、モルディブ……これから足を運んでみたい場所は尽きない。その想いは地球の外側まで広がっている。
「今回の人生で実現できるかはわかりませんが、絶対に宇宙へ行きたいと思っています。子どもの頃、宇宙飛行士になりたくて、12歳の時にスペースキャンプへ行ったんです。いつの間にか表現の道へ進んでいたけれど、いつか宇宙を歩きたいという夢はまだあります。本当に月の上を歩くことは難しいかもしれないけれど、映画のなかでもいいから、その感覚を経験してみたい。月の上でムーンウォークをしてみたいですね」
息子の成長を見届け、いつか孫にも会いたい。そのためにも、ココロとカラダを大切にしながら歩き続けたいと笑顔で話す。
「おばあちゃんになっても元気でいたい。できれば、腹筋が割れているくらい、バキバキでかっこいいおばあちゃんになりたいんです。今もかっこいいママでいたいけれど、その先もずっと、自分らしくいたいですね」
歩くことで、自分の感覚に立ち戻る。歩く場所が変われば、見える景色も、自分自身も少しずつ変わっていく。前を向くことも、足元の小さな世界に目を凝らすことも、どちらも人生を歩くための大切な視線だ。すみれさんの歩みは、ひとつの役割にとどまることなく、いくつもの自分を抱きしめながら、まだ見ぬ景色へと続いている。
EDIT+TEXT: MOE NISHIYAMA






