ランニング&ウォーキングシューズで培ってきたアシックスの技術力を結集させた「Runwalk」。その最新作では毎回、終日歩き回っても足への負担が少ない機能性と、インポートのブランド靴かと思えるほどクラシカルな美観を備えた高機能ドレスシューズが揃う。Runwalkの開発に携わる三浦に、その靴づくりにかける想いを聞いた。
PROFILE
三浦 裕司
ウォーキング統括部・企画開発部
ウォーキングデザインチーム所属。
ジミー・チュウやパトリック・コックスなどを輩出した名門校で靴づくりを学ぶ。卒業後は数々の有名メゾンのドレスシューズを手がけるメーカーや、イタリアを代表する世界的ブランドを渡り歩き、現在はアシックスにてウォーキングシューズのデザインを担当。
Runwalkの特徴とは?
クッション性、安定性、グリップ性、屈曲性、フィット性、耐久性、通気性、軽量性という8つの機能がバランスよく備わっていることだと思います。一方、高機能なソールを使用しながらもデザイン性や木型など、いわばドレス的なカッコよさにこだわっていることもRunwalkの特徴です。デザインはデザイナーと協議し、1ミリ単位の違いまで徹底的にディティールを詰めています。また、本格的なウィングチップを始め、ビジネスから冠婚葬祭まで高い汎用性がある黒のストレートチップや、遊び心のある内羽根モデルなど、さまざまな商品ラインナップが揃うのも魅力です。あまりに本格派のデザインすぎて、もしかするとそんな数多くの機能性が備わっているとはパッと見ではわからないかもしれません。
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そもそもRunwalkが誕生した経緯とは?
Runwalkは“走れるビジネスシューズ”をキーワードに開発されています。1976年にモントリオールで開催された国際的なスポーツ大会がきっかけで、開会式にあらわれた選手団がブレザーにスニーカーを合わせているのを見た創業者の鬼塚喜八郎が「アスリートが競技の場を離れ、ブレザーで移動や入場行進をする際に履ける靴を作ろう!」と構想を立てたのが発端です。そうして1983年に「ペダラ」が誕生しました。その後、30〜40代向けのビジネスシューズとして1994年にRunwalkがローンチされました。
Runwalkに訪れた転機とは?
2011年に起きた東日本大震災が大きなターニングポイントになった気がします。震災以降、ビジネスシューズへの期待値が変わり、機能性や歩きやすさを求める声が増えてきたように感じます。あとは、近年の働き方に対する価値観や気象の変化も大きいですね。働き方が非常にタフになってきている中で、アシックスはスポーツシューズで積み重ねたノウハウを存分に活かしRunwalkの開発に力を入れてきました。そのおかげで、アシックスがもつ人間工学に基づいた高度な技術と、ヨーロッパのエレガンスな美しさやデザイン性を融合したドレスシューズが生み出せているのだと思います。こんなにテクノロジーを搭載しているビジネスシューズはあまりないのでは、と個人的には思っています。
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いまの時代に、ビジネスシューズに求められることとは?
いまのお客様は、流行を気にしながらも自分のフィルターを通してモノを見る、選ぶ、買う。そんな人が多いように感じます。ビジネスシューズの世界でもクールビズやオフィスカジュアルの名のもと、ファッションのカジュアル化が進み、昔ながらの伝統製法でつくられた靴を選ぶ方がいる一方で、機能性の高いハイパフォーマンスなシューズを選ぶ消費者も少なくありません。スニーカーの世界では、アッパーをニットで縫ったりソールにエアーを導入したりと、技術的な確信が起こってそれが世の中的にヒットしていますよね。
でも、ドレスシューズの製法はどれも100年以上前に生み出されたものがほとんどで、現在に至るまでさほど変化はありません。もちろん伝統的な製法を守ることも大切です。でもいまは、お客様が求めているものをどのように実現できるかの方が重要。例えばドレスシューズには、ハンドソーン、マッケイ、グッドイヤーウェルト、セメントといったさまざまな製法があって、決してグッドイヤーウェルト製法が最上位というわけではないんです。正直に言うと、私自身グッドイヤーウェルトが最高の製法だと思い込んでいた時期もありました。もちろんこの製法はすごくいいものですが、100年以上前のやり方がいまのニーズに必ずしもマッチするわけではないんです。
誤解を恐れずにいうと、アシックスのRunwalkの機能面は素晴らしいですが、そこで止まってしまっていたというのもあります。靴は「履く」につながる機能性と、「身につける」ためのデザイン性の両方が求められます。Runwalkも最初からそのすべてが満たせていたわけではありませんでした。だからこそ私はもっともっとRunwalkをより美しくブラッシュアップしたい。どれだけ素材面で進化していっても、ドレスシューズはビジネスシーンにおいて欠かせないツールのひとつです。そこを目標としてデザインも機能面も、もっと完成度の高いプロダクトを目指したいと思います。そしてゆくゆくは、世界的にも評価されるようなブランドへと成長させていきたいですね。