創業者・鬼塚がスポーツ大会の入場行進で覚えた「違和感」
アシックスのウォーキングシューズ「ペダラ(pedala)」は、歩きやすさにこだわったモデル。現在、ビジネスシーンからふだん履きまで、多くのユーザーから支持されています。そんな「ペダラ」が誕生したのは1983年でした。名前の由来は、ラテン語で「足」を意味する「pes」と、「足の~」を意味する「pedal」から文字をとった造語で、「歩く」という意味が込められています。アシックスのスポーツシューズ開発で培った技術を応用し、履きやすさと歩きやすさを追求したウォーキングシューズ「ペダラ」。誕生のきっかけは、創業者(下部写真中央)の鬼塚喜八郎による発想からでした。
1976年、国際的なスポーツ大会の開会式。ブレザー姿にオニツカのトレーニングシューズを履いて入場行進する日本の選手団を観客席から見た鬼塚は、その姿に違和感を覚えました。「世界に認知された高い技術力を使って、ブレザーに合わせることができる靴をつくりたい。そして競技以外のシーンにも対応する新しい靴へと広げたい」と思い立ちます。そんな創業者の考えを取り入れながら実行に移したのが、当時のウォーキング・シューズ・プロジェクト・チームの8名。“スポーツシューズの履き心地をもった革靴”とは、どのような商品で、どうしたら売れるのかなどを模索し始めました。
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市場に存在していない、まったく新しい発想の靴が誕生!
当時は硬くて重い革靴が主流で、靴は我慢して履くというのが「ペダラ」発売前の多くのユーザーの共通認識。鬼塚はそんな市場の調査を進め、ターゲットを「足に悩みのある人たち」「働き出して健康を意識した世代」である30~40代に絞りました。さらに美容師や販売員といった立ち仕事をしている人などに話を聞き、足の形状に沿った“足なり”で、素足で歩くようにウォーキングができる靴の開発を始めました。アパレルなら半年ほどで新しい商品が発売されますが、構造から考える必要がある「ペダラ」はそのようにはいきません。約3年の年月を経た1983年、ついに「ペダラ」の初期モデルが発売。オイル調の革を使った、アウトドアテイストなデザインの一足です。
こだわりのひとつは“足入れ”。履きやすさを考え、足を入れた時の感覚がスポーツシューズと同じかを何度も確かめ、実現しました。そして歩きやすさも考え、ソール部分にはスポンジ素材を採用。革靴のような見た目ながら、履き心地はスポーツシューズ。そんな、これまで市場になかったものを形にした商品が「ペダラ」でした。
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機械を使った足形計測や豊富なソールなど 革新的な取組み
特約店や直営店などでの販売開始とともに行われたのが、機械を使って一人ひとりの足を立体的に計測する3次元足形計測です。こだわってきた“足入れ”をスムーズにするためには、内寸と足の数値が合っていることが大切。さまざまな足幅に対応できるように最初からEや2Eなどのウイズ展開もしていました。
「ペダラ」の機能も年々新しいものが考えられ、搭載されていきました。そのひとつが、種類豊富なソールです。象徴的なのが、1995年に初期モデルが発売された「エアサイクル」。通気孔を設け、ムレた空気を排出することで通気性を高めたソールです。その後も、2003年には足裏全体を使った安定感ある歩行を可能にする「ロングウォーク機能」、寒冷地の氷雪路でも優れたグリップ性を発揮する「アイスウォーク」など、さまざまなソールが登場しました。
1986年には、ビジネスタイプの「ワラッジ」が誕生。続いて、パンプスが登場したことも女性の支持を集め、「ペダラ」のデザイン性を高めるきっかけとなりました。硬い路面を歩いても衝撃を緩衝する素材をヒールに使用し、履きやすさにこだわった一足です。足や靴に悩みを抱える多くの人たちに支持されてきた「ペダラ」。今後の展望は、ゆっくり歩くことで気づけるような景色や場所を見つけるなど、単なる運動や移動のためとは異なった“歩く楽しさ”を広げていくこと。それは「ペダラ」誕生時の理念である「豊かな人生を送るためのウォーキング」に通ずるものです。
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