いつもの東京が違って見える、歩くという冒険
早朝の渋谷から夕暮れの豊洲を、1,400人が歩く。
Sunrise to Sunset Walk

#Story 2024.12.20

いつもの東京が違って見える、歩くという冒険

「歩くは冒険だ」を合言葉に、渋谷、浅草、銀座といった東京の名所をウォーキングでめぐるイベント「Sunrise to Sunset Walk」。42.195kmという長い道のりながら、寄り道、休憩、食べ歩き、プチ観光……すべてOK。自らの脚で、自らのペースで街から街へと歩きながら、夕暮れのゴールを目指す。そんなまったく新しいウォーキングイベントの魅力を、当日の模様とともに振り返ります。

冒険心とワクワクが駆動力

電車、バス、タクシー。あらゆる交通網が発達し、どんな街にだって気軽に移動できる日本の首都、東京。

一方で、東京の玄関口となる東京駅を中心に半径10km圏内を見てみると、そこには新宿や渋谷などの山の手エリアから、上野・浅草、銀座・六本木、さらにはお台場・豊洲といったベイエリアまで含まれます。個性豊かな街がギュッと凝縮している東京は、もしかすると“歩いてめぐる”のにぴったりの都市なのかもしれません。

去る11月9日に開催された「Sunrise to Sunset Walk」は、そんな東京を歩いてめぐるイベントです。総歩行距離は42.195km。フルマラソンでおなじみの距離ながら、「歩くは冒険だ」という合言葉のとおり、そこにはタイムや順位を争う競技性はゼロ。むしろ大切なのは自らの脚で街から街へと回遊し、それまで気づけなかった東京の魅力と新しい自分を再発見すること。それが「Sunrise to Sunset Walk」なのです。

東京をぐるり。魅力的なコース設定

肝心のコースは、東京観光の王道といえるスポットをつないだ42.195km。早朝の渋谷をスタートし、原宿、神宮外苑、神楽坂、上野、銀座……そしてもちろん東京タワーと東京スカイツリーという二大ランドマークも間近に眺めながら、ゴールの豊洲を目指します。

「Sunrise to Sunset Walk」は道中で休憩したり、お茶をしたり、食事をしたりするのも自由。フィニッシュゲートが閉まる夜9時までにゴールできれば、歩くペースや楽しみ方は参加者次第です。コース上には数十メートルおきに自販機やコンビニがあり、ベンチが設置された公園やカフェ、商業施設もたくさんあるので、参加者にとって心理的な安心感があります。

一方で、本当にフルマラソンと同じ距離を歩き切れるのかという不安や緊張は、多くの参加者が感じていたはず。そもそも簡単にゴールできてしまっては、この冒険から本当の達成感を得ることはできません。気軽さとつらさ、ワクワクとドキドキ。その適度なバランスこそが、「Sunrise to Sunset Walk」の面白さといえるでしょう。

朝6時。人気のない渋谷からスタート

当日の天気予報は晴れ。日中の気温は18℃まで上がるとのことですが、まだ薄暗い早朝の東京都心部は厚手のアウターが必要なほどの寒さです。

スタート地点となるのは、渋谷スクランブルスクエアの屋上展望施設「SHIBUYA SKY」。地上229mからサンライズを拝み、少しずつ明るくなっていく東京の街並みを見下ろしながらスタート時刻を待ちます。

SHIBUYA SKYは通常10時オープンのため、ここから日の出を見られるのは極めて貴重とのこと。このスペシャルな演出には、参加者も寒さを忘れてこぞって記念撮影。「ここが今日のピークじゃない!?」といった声も聞こえるほど、イベントはハイテンションでスタートしました。

地上に降りて歩きはじめると、いつもは人があふれかえっているはずの渋谷が、異様なほどの静けさに包まれています。それはお隣の原宿も同様で、「人のいない駅前の光景は新鮮」「こんなに速く竹下通りを抜けられたのは初めて」と、普段は垣間見ることができない東京の姿に参加者も驚きを隠せない様子でした。

イベント定番のアレがない

「汗をかきながら歩き切るというより、みなさんにはのんびり歩きながら東京散策を堪能してもらいたいですね」

スタート前にそう話してくれたのは、ASICS WALKING JOURNALにもたびたび登場している樋口慎也さん。本イベントを主催するアシックス商事の社員で、一日で100kmを完歩する「エクストリームウォーク」の常連であり、さらに“エクストリーム樋口”という愛称で、同社のウォーキングイベントのアンバサダー的存在としても知られています。

樋口さん曰く「Sunrise to Sunset Walk」には、通常のランイベントやウォーキングイベントでは当たり前のアレがないのだそう。

「実は今回、参加者が背中などにつけるゼッケンを廃止したんです。スポーツや競技というイメージから離れて、街に溶け込みながらマイペースでウォーキングを楽しんでほしいという想いからです」

たしかに周りを見渡すと、そんな樋口さんの想いもあってか歩きやすい服装をベースとしながら、普段着のエッセンスを入れたカジュアルなスタイルで歩いている参加者が多い印象。さらにゼッケンがないことで競技というよりも “ちょっとアクティブな東京観光”といった雰囲気です。

ちなみにゼッケンの代わりになるのはバーコードが封入されたキーホルダー。チェックポイントごとにバーコードを読み込むことで、各参加者の進捗が管理されます。

またチェックポイントでは、イベント名にちなんだ大喜利やお題に沿った写真撮影といったクエスト(ミッション)も。これをクリアしていくことで、長い道のりをより楽しく歩くことができるのです。

この日一番? の撮影スポットはここ

神宮外苑のいちょう並木を抜けて外苑東通りを北上。神楽坂付近で進路を東にとると、やがて上野や浅草といった下町の繁華街を通ることになります。この辺りは老舗の飲食店やお菓子屋さんが豊富にあるので、ランチやブランチを楽しみながらひと息入れようという参加者がちらほら。スタート前には「〇〇の名物スイーツが食べたい」とか「人気のラーメン店をハシゴしたい」と話す人もいて、今回のイベントではどこで何を食べるか楽しみのひとつとなっているようです。

ドリンクやゼリー飲料が提供される第1エイドステーションの入口には、ちょっとした人だかりができていました。ここは東京スカイツリーをバックに迫力ある写真が撮れる絶好のスポット。スタートからおよそ17km。徐々に疲労を感じはじめるこのタイミングで、迫力ある東京スカイツリーに元気をもらう参加者がたくさんいました。

歩くから気づける発見、見える景色

実際に東京を歩いてみると、序盤の渋谷〜神楽坂あたりは、地名に「谷」や「坂」とあるようにアップダウンに富んだ道が続きますが、隅田川が近くなると平坦で直線的な道が増えていきます。そうした地形の変化も、歩いていると自らの足でリアルに感じ取ることができです。

歩くから気づくこと。歩くから見える景色。ふとした発見や驚きが誰でも気軽に味わえるのはこのイベントならではといえるでしょう。

「ウォーキングイベントだと仲間を気軽に誘いやすいんですよ」

そう話してくれたのは、「Sunrise to Sunset Walk」のアンバサダーを務めるヤハラ リカさん。これまでフルマラソンに10大会以上出場しているほか、2017年には世界で最も過酷とされるサハラマラソン250kmも完走。そんなヤハラさんにとって、ウォーキングは少し物足りないのでは?

「いえいえ! 歩きには歩きのハードさと楽しさがあるので、今日をすごく楽しみにしていました。実際に参加してみると、手を繋ぎながら歩いている人や、仲間と会話を楽しみながら歩いている人がいて、普段マラソンを走っている私からすると新鮮。すごくいい光景だなって思いました」

夕暮れとともにゴール。そしてアフターパーティーへ

後半は一旦越えた隅田川を戻って日本橋方面へ。東京駅、皇居、銀座、東京タワーといった名所を通りながら、汐留や晴海のベイエリアを歩きます。この日の日没時刻は16時38分。スタートからおよそ10時間が経ち、すでにゴールを迎えた参加者も増えてきました。

日の出とともにスタートした「Sunrise to Sunset Walk」にとって、日の入りはもうひとつのハイライト。16時38分には、ゴールした人もまだ歩いている人もみんなで笑顔の写真を投稿する“サンセット1638”というプチイベントも。こうして、東京のどこかにいる1,400人の参加者全員が歩くことを通じてひとつになり、イベントはクライマックスを迎えたのでした。

豊洲の「KIRANAH GARDEN」にあるフィニッシュゲートを抜けると、その先にはアフターパーティーの会場が。芝生で大の字になってゴールを謳歌する人、プールサイドで仲間と乾杯する人、ソファに腰掛けて気持ちよさそうにまどろむ人。参加者のそれぞれの表情から、42.195kmのウォーキングがどんな体験だったのかをうかがい知ることができました。

「仲間が支えてくれたおかげでゴールできました。ひとりじゃリタイヤしていたかも」
「最後のほうはどうなるかと思ったけど、全員でゴールできて最高です!」
「歩きながら『ここでご飯食べたよね』とか『ここ来たことあるよ』といった会話で盛り上がる場面も。イベントをきっかけにお互いのことをより知ることができました」

無事ゴールしたばかりの3人からは、そんなコメントが矢継ぎ早に飛び交います。次回も出たいか尋ねてみると、「もちろん!」と即答してくれました。

渋谷から豊洲へ、自らの脚だけを頼りに42.195kmを歩き抜くという冒険。その先にあったのは、まだ見ぬ景色との出会いであり、仲間との絆の再確認であり、そして何より、苦労を乗り越えた新しい自分自身の発見だったのではないしょうか。すべての参加者にとって、この冒険で得た経験はかけがえのないものになったに違いありません。

Photo : Kohei Watanabe
Edit+Text : Taro Takayama(Harmonics inc.)