#WELL-BEING 2023.10.13
歩く、話す、見つける、
とっておきの街歩き。
SANPO TALK – 小諸・森 一馬編(マンズワイン株式会社)-
※2023年7月時点の取材内容で構成しています。
その街をよく知るナビゲーターがおすすめの散歩コースを紹介しながら、自身のウォーキングスタイルについて語る連載企画「SANPO TALK」。
第13回のナビゲーターは森 一馬さん。大学時代に留学したフランスでワインの魅力に取りつかれたという森さんは、現在、長野県小諸市にあるワイナリーに勤務。ワイン造りに最適な環境とかつての城下町の風情が残る小諸の街を、のんびり散歩しながら案内してもらいます。
今回のSANPO TALKで巡るのは、長野県小諸市。江戸時代には小諸城の城下町として、また北関東と信濃国(長野県)を結ぶ北国街道の宿場町として栄え、今でも通りの雰囲気や建物には当時の名残が数多くあります。また市の中央には千曲川(ちくまがわ)が流れ、周囲を浅間山や蓼科山(たてしなやま)といった山々が囲む豊かな自然環境も魅力の街です。
ナビゲーターは、1962年に誕生した日本のワインブランド「マンズワイン」の小諸ワイナリーに勤務する森 一馬さん。3年間のフランス生活で本場のワインに魅了され、「ワイン造りに携わる仕事がしたい」とマンズワインに入社。同社の小諸ワイナリーのスタッフとなったのを機に小諸市に移住して5年が経ちました。
「まずは小諸市で最も有名なスポットから行きましょう」と森さん。案内されたのは、JR 小海線・しなの鉄道小諸駅からすぐの「小諸城址 懐古園」。
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小諸城は周囲よりも低地に建てられた別名「穴城」と呼ばれる城郭が特徴で、日本百名城にも数えられています。現在はその城址が公園となり、観光地としても地元の人々の憩いの場としても親しまれているのだそう。
「園内には動物園や児童遊園地もあるので、城跡の見物客だけでなく、小さなお子さんを連れてくるファミリーの方も多いですね。また桜の名所としても知られていて、春はお花見客で賑わいます。僕にとってもお気に入りの場所で、コロナ禍の前には、よくワイナリーの仲間とワインを持ち寄ってピクニックをしていましたね」
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広々とした懐古園を散策した後は、駅を挟んで反対側の市街地エリアを目指します。その道中はゆるやかに伸びる上り坂。
「小諸は川と山に挟まれた坂の多い街なんです。でも高低差のおかげで視界や景色が変化していくので、散歩していても飽きることがないんです」
森さんが次に案内してくれたのは、「彩本堂(さいほんどう)」。宿場町としての風情が残る北国街道沿いの喫茶処です。
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古民家をリノベーションした店内は、小さな盆栽が並ぶ和の空間。外の喧騒を忘れて、サイフォン式で淹れたコーヒーや日本茶を楽しめます。森さんがオーダーしたのは、浅煎りのスペシャルティコーヒーと抹茶の色が美しい苔玉ケーキ。
「今日みたいな暑い日も、香りがより引き立つホットのコーヒーを頼むことが多いです。香りという要素が奥深くて大切なのは、ワインもコーヒーも同じですしね」
そして店主が丁寧に抽出したコーヒーが森さんのもとへ。
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「こうして小さな盆栽を添えて提供してくれるんですよ。素敵ですよね。彩本堂さんでコーヒーを飲んでいると、つい時間を忘れて寛いでしまいます」
香り高いコーヒーとスイーツを堪能して散歩を再開。次のスポットも北国街道沿いの古民家をリノベーションしたお店だそう。
「昔ながらの街並みが残るこのエリアは、お散歩には最適だと思います。おしゃれなお店やギャラリーなどがたくさんあって、散策のしがいがありますから」
次に訪れたのは「デリカテッセン ヤマブキ」。小諸で300年以上も味噌造りを続けている老舗「山吹味噌」が手がける、自家製のハムとソーセージの専門店です。
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「ここはワイナリースタッフ御用達のお店。ワインの勉強会を開催するときに、ヤマブキさんのハムやソーセージをおつまみとして用意するのが定番なんです」
おいしそうな商品がよりどりみどりのガラスケースから、森さんはハムの盛り合わせと「ビールのアテに最高」というスモークチキンをゲットしました。
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ここで情緒たっぷりの北国街道を離れ、小諸駅北側のエリアを目指して歩きはじめます。
「のどかな風景が続いているので、歩いていて落ち着きますね。この辺りは夏場でも朝夕が涼しいので、ちょっと早起きすると散歩したくなるんです。ちなみに小諸は一年を通じて昼夜の寒暖差が大きいのが特徴で、実はワイン用のぶどうを育てるのに最適な気候なんです」
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愛知県出身でフランスでも暮らしていた森さんですが、小諸での生活には慣れたのでしょうか。
「慣れるどころか、移り住んですぐに馴染むことができました。小諸の人はみんな親切で懐が深いんですよ。ワイナリーの従業員は県外出身者が多いんですが、そんな僕たちをスッと受け入れてくれる。好きなことを仕事にしながら快適に日常生活も送れて、言うことなしです」
続けて、「地元ですごく人気のお店なんですよ」と案内してくれたのは「ベーカリーカフェ ハグリコ」。手作りの焼きたてパンにファンが多いお店です。
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「とにかくパンの種類が豊富なので、何を買うかいつも迷います。僕はサンド系のパンを買うことが多いのですが、フランス産岩塩を使った『塩ぱん』もおすすめ。ここでパンを買ってピクニックというのもいいですし、イートインスペースでコーヒーと一緒にパンを食べることもできますよ」
ちなみにWi-Fiやキッズスペースを完備するなど、使い勝手がいいのも人気の秘密。ワイナリーから近く、18時30分まで営業していることもあり、森さんも仕事帰りに立ち寄ることが多いのだそうです。
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今回のお散歩もそろそろ終盤。民家が並ぶ狭い路地を進んでいくと、めずらしいスポットに到着しました。浅間山を水源とする湧き水が出る「弁天の清水」です。
「小諸には20カ所以上の水源があるんですが、出てくる場所によって水質が違うんです。ほとんどが硬水や中硬水なんですが、ここだけは軟水なんですよ」
弁天の清水は、湧き出る量が豊富なことと、夏でもとても冷たいのが特徴。農業用水や生活用水として利用されたり、夏にはここで野菜やスイカを冷やす光景もあるのだとか。
「それだけ小諸は自然の恵みが豊かな場所なんですよ」
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そう言って今回の散歩の最後に向かうのは、まさに小諸の土地が育んだ恵みに出会える場所。マンズワインの小諸ワイナリーです。その途中、森さんが「今よりもよく歩いてました」というフランスでの生活を振り返ってくれました。
「フランスは古いものを大切にするので、旧市街には車が入れません。だから街中を移動するとしたら必然的に徒歩になるんです。当時はいろんな路地を散策して、新しいお店やおいしいレストランを開拓していました。あと、ワイン好きの友達と各地のぶどう畑を歩いて巡ったりもしていましたね。向こうの畑は広大で周囲には何もなく、ただひたすら歩いて、栽培者さんごとの育て方の違いや工夫を見て回っていたんです。この経験は今の仕事にも生きていると思います」
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やがて、傾きはじめた陽に照らされる、青々としたぶどうの樹が見えてきました。
マンズワインが、ぶどうに適した小諸の気候風土に目をつけワイナリーを開設したのは1973年。1981年には「白ワイン品種の女王」とも呼ばれるシャルドネの栽培を開始。樹齢40年以上のシャルドネは、日本国内にはほとんどないのだとか。
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「ぶどうも人間と同じで、若いときにはブレがあります。でも樹齢が30年を超えると安定して質の良いぶどうが採れるようになるんです。我々のワイナリーは、フランス語で『ヴィエイユ・ヴィーニュ』という“古い樹”を多く有しているのが特徴です」
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広大なワイナリーにはぶどう畑だけでなく、特別な日にしか公開されない地下セラーや美しい日本庭園も。最後はちょっとしたワイナリーツアーを楽しんで、今回のお散歩は終了です。
「フランス時代の話をしていたら、また行きたくなりましたね(笑)。日本でワイン造りを経験した今だからこそ学べることは多いかもしれません。でも小諸も大好きな街なので離れたくないんです。こんなに良いぶどうが育つ環境なんですから、きっと、僕たち人間が心地よく過ごせるのも当然なんですよ」
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小諸城址 懐古園
住所:長野県小諸市丁311
電話:0267-22-0296
彩本堂
住所:長野県小諸市荒町2-5-3
電話:0267-41-0395
デリカテッセン ヤマブキ
住所:長野県小諸市荒町1-6-4
電話:0267-41-0818
ベーカリーカフェ ハグリコ
住所:長野県小諸市市町5-3-7
電話:0267-46-8035
弁天の清水
住所:長野県小諸市諸250
マンズワイン 小諸ワイナリー
住所:長野県小諸市諸375
電話:0267-22-6341
PROFILE
愛知県出身。大学在学中にフランスへ留学し、ワインのおいしさ、面白さに目覚める。大学卒業後もさらに2年間のフランス生活で本場のワイン造りに触れたのち、マンズワイン株式会社に入社。2018年より小諸ワイナリーにてぶどうの栽培スタッフとして活動。現在は営業・販売業務を担当し、ワイナリーショップやイベントを通じて、一般消費者に直接ワインの魅力を伝えている。
Edit+Text : Taro Takayama(Harmonics inc.)