#WELL-BEING 2024.12.27
歩く、話す、見つける、
とっておきの街歩き。
SANPO TALK -大磯・神田美咲編-
※2024年12月時点の取材内容で構成しています。
その街をよく知るナビゲーターがおすすめの散歩コースを紹介しながら、自身のウォーキングスタイルについて語る連載企画「SANPO TALK」。第25回のナビゲーターは、プランナーとして大手代理店で働く神田美咲さん。昨年秋に一念発起し、東京都内から神奈川県の大磯町に移住したという神田さんは、美しい海がすぐそばという環境の中でどんな散歩を満喫しているのでしょうか。お気に入りのスポットを巡りながら、大磯でのウォーキングライフを聞きました。
今回の散歩の舞台は、神奈川県中郡大磯町。相模湾沿岸の湘南エリアに位置する大磯は、明治18年に日本初といわれる海水浴場が開場して以来、別荘地やリゾートとして発展してきました。初代内閣総理大臣の伊藤博文をはじめ、政界の要人がこぞって邸宅や別邸をもったことからも、都心からのアクセスの良さや静かな住環境といった大磯の魅力をうかがい知ることができます。
そんな大磯に惹かれて単身移り住んだのが、都内の大手代理店に勤める神田美咲さん。今回のSANPO TALKのナビゲーターです。
「大磯にようこそ! 紹介したい場所やスポットは山ほどあるのですが、今日はその中から厳選した散歩コースをご案内します」
神田さんが大磯に移住したのはおよそ1年前。都内での暮らしに不満はなかったものの、いつかは静かな郊外での生活を味わってみたいと思っていたのだそう。
「現在の職場へのアクセスを考えて、移住先は湘南エリアに絞っていました。実は大磯に来る前、湘南にある別の街に半年だけ住んでいたのですが、思ったより栄えていて田舎暮らし感がなかったんです。そんな折、たまたま大磯にリノベーションしがいのある古民家を見つけて、『これだ!』と移住のやり直しを即決しました」
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大磯の玄関口である駅前には大きなビルもなく、海水浴客や観光客の少ない平日はいたって静か。しかし目の前にはビーチ、振り返れば高麗山(こまやま)や鷹取山の山並みが連なる自然豊かな街です。
「湘南エリアにある街のなかでも、駅から海までの距離が近いのが大磯の特徴なんですよ。海岸散歩はあとに取っておくことにして、まずはお気に入りのカフェに行きましょう」
駅から歩くこと3分。雰囲気のいい路地を奥へと入っていくと、地元のお客さんで賑わう古民家カフェがありました。
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「茶屋町カフェ」は築80年という古民家を改装したお店。お昼はランチ、夜はアルコールと一品料理が楽しめる憩いのスポットです。
「このお店を見つけたきっかけですか? それこそ大磯に移り住んですぐ、街を探検しようと歩いていたときのこと。『この先に何かありそう』と思いながら路地に吸い込まれてみたら、こんな素敵なカフェがあったんです」
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お店の隅のテーブル席で、ゆったりとランチをいただくことが多いという神田さん。この日は散歩はじめの景気づけに、初めて飲むのという「ダイヤモンド ガラナ」をオーダー。
「メニューに『オススメ』とあったので気になって(笑)。さわやかな発泡感とほのかな甘みがあっておいしい。料理にもよく合いそうですね。ここは大磯ではめずらしく、年中無休で午前中から夜まで通し営業をしているお店。仕事の合間やプライベートの空き時間など、いつでもふらっと立ち寄れるのがいいんです」
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茶屋町カフェをあとにして、いよいよ本格的に散歩がスタート。と思いきや、小麦の香りがただようお店がすぐ近くに。アメリカ・サウスカロライナ出身のリーさんが焼くパンが絶品という「Lee’s Bread」です。
リーさんは学生時代に初来日。25年ほど前から独学でパン作りをはじめ、2017年に大磯で自身のパン屋さんをオープン。2021年に移転した現在の店舗には、看板商品のカンパーニュやサンドイッチを求めて遠方からもお客さんが訪れます。
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「ここも茶屋町カフェと同じ時期に見つけました。散歩がてら訪れてはおいしいパンを買って帰ると、すごく幸せな気分になれるんです。私はベーグルサンドやオリーブのパンがお気に入りなのですが、人気のパンは午後には売り切れてしまうことも。気になった方はなるべく早い時間に来ることをおすすめします(笑)」
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日によってパンのラインアップは変わりますが、神田さんは自宅用のカンパーニュに加え、「もしかしたら散歩の合間に食べちゃうかも」としらすバゲットを購入して再び歩きはじめました。
現在、週4日は自宅でのリモートワークだという神田さん。一日中PCに向かってリサーチや資料制作をすることもあるといいます。
「だからこそ頭も心も体もリフレッシュできる時間はとても大事。その意味で、手軽にできる散歩は最高の気分転換なんです」
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海へと出るルートを少し遠回りして、次は大磯町の有形文化財に立ち寄ることに。「旧島崎藤村邸」は、大磯で晩年を過ごした詩人で小説家の島崎藤村(しまざきとうそん)の旧宅。大正後期から昭和初期にかけて建築されたという味わいのある家屋で、現在は誰でも無料で見学できます。
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「こぢんまりとした平屋で、すごく風情がありますよね。ちなみに藤村が寝室で最期を迎える直前、妻に告げたのが『涼しい風だね』という言葉だったそうです。大磯での余生はきっと過ごしやすくて心地いいものだったんだろうなと思います」
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藤村も散歩したであろうのどかな道を歩きながら、大磯のランドマークである灯台とビーチを目指します。道中の話題は、神田さんのウォーキングスタイルについて。
「都内に住んでいたころは、電車やクルマで目的の場所に行くというのが当たり前でしたが、大磯に来てから歩くことの面白さに目覚めました。さっきのカフェもパン屋さんも、歩いたからこそ発見できた大切な場所。そうした偶発的な出会いが楽しみで、ついあてもなく歩いてしまうんです」
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閑静な住宅街を抜け、大動脈である国道1号線を越えると徐々に相模湾が見えてきました。まずは「私の散歩の定番コースになっています」という「大磯港遊歩道」を歩きながら灯台がある港の突端へ。ここまで来ると遮るものなく海のパノラマを堪能できます。
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さらに港を東に向かって進んでいくと見えてきたのは、2021年にオープンしたという「OISO CONNECT」。老朽化した漁協組合の事務所を建て替え、“港を中心に人とモノをつなぐ”をコンセプトに生まれた商業施設です。
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1Fは地元の物産やその日に水揚げされた魚介類を販売するショップ、2Fには見晴らしのいいカフェがあり、週末はとくに賑わうという人気の観光スポットなのだとか。
「ここは私にとって、海岸散歩の中継地点になっています。ショップでは地元の新鮮な野菜が手に入るので、近所の八百屋さんのような感覚で利用することが多いんですよ」
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さらに進むと大磯の代名詞といえる砂浜に到着しました。ここは冒頭で記したとおり、日本における海水浴場の発祥の地とされている場所。夏は大賑わいのスポットですが、冬の夕暮れどきは人もまばらで、ゆったりと海を眺めることができます。
「この辺りはマリンスポーツの聖地と言われていますが、私は全然やってなくて(笑)。でもこうして眺めているだけで十分。私にとって海は、他では得られない癒しを与えてくれる存在なんです」
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この日最後に訪れたのは「CANCAN(カンカン)」。茶屋町カフェやLee’s Breadが並ぶ一角にあるワインバーで心地いい疲労感をほぐし、大磯散歩を締めくくります。
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豊富なワインのラインアップと気取らない立ち飲みスタイルで地元の人々に愛されているというCANCAN。もともと和菓子屋さんが所有していた建物をリノベーションし、2019年にオープンしました。
「ここの料理はすべて日替わりなんですよ」と、店内にあるメニューをチェック。悩みに悩んでオーダーした「しらすとネギのキッシュ」がテーブルにやってくるなり、神田さんの表情もほころびます。
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「朝から晩まで仕事をして、『今日は外に一歩も出てないな』という日があると、散歩をしながらここに来るんです。すると仕事の疲れが癒えて、自然と心も体もほっこりします。ワインバーと聞くと敷居が高く感じますが、ここは気取らずサクッと入れるところも気に入っています」
上質な料理を楽しみつつ散歩を振り返る神田さんに、あらためて大磯の魅力を聞いてみました。
「移り住んでみていいなと思ったのは、街がコンパクトなところ。駅を中心に山沿いから海沿いまでぐるっと歩くと、ちょうど1時間くらいなんです。でもその中に気になるお店や路地がたくさんあるので散策のしがいがあるんですよ」
今回のルート以外にも、まだまだおすすめの散歩スポットがあるという神田さん。その生き生きとしたその表情は、思い切って大磯に移り住んだ充実感であふれていました。
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茶屋町カフェ
住所:神奈川県中郡大磯町大磯1157
電話:090-3801-5455
Lee’s Bread
住所:神奈川県中郡大磯町大磯1156-4
電話:0463-74-6399
旧島崎藤村邸
住所:神奈川県中郡大磯町東小磯88-9
電話:0463-61-3300(大磯町観光協会)
大磯港遊歩道
所在地:神奈川県中郡大磯町大磯1398
OISO CONNECT
住所:神奈川県中郡大磯町大磯1398-6
電話:0463-20-8237(1Fショップ)、050-5385-1673(2Fカフェ)
大磯海水浴場(北浜)
所在地:神奈川県中郡大磯町大磯1990
CANCAN
住所:神奈川県中郡大磯町大磯867-3
電話:0463-57-7199
PROFILE
1992年、栃木県生まれ。大学を卒業後、代理店、マーケティング会社、フリーランスを経て現在の広告代理店へ。企業の課題解決のため、市場リサーチから具体的施策の提案までを行うプランナーとして活躍。大磯移住については「海なし県出身なので、海への憧れが強かったのかも」。
Edit+Text : Taro Takayama(Harmonics inc.)