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歩く、話す、見つける、
とっておきの街歩き。
SANPO TALK
#26 趣味も仕事もここで完結。自然豊かな高尾山で癒しと刺激をインプット。

#WELL-BEING 2025.01.31

歩く、話す、見つける、
とっておきの街歩き。
SANPO TALK -高尾山・コンスタンス・リカ編-

※2024年12月時点の取材内容で構成しています。

その街をよく知るナビゲーターがおすすめの散歩コースを紹介しながら、自身のウォーキングスタイルについて語る連載企画「SANPO TALK」。第26回は、マレーシア出身で日本の大手代理店に勤めているコンスタンス・リカさんが、人気の登山スポットである高尾山とその周辺をナビゲート。彼女にとって高尾山は、趣味を楽しむ場であると同時にワーキングスペースでもあるのだそう。東京とは思えない豊かな自然を満喫しながら、登山だけにとどまらない高尾山の魅力にスポットを当てます。

豊かな自然と都心からのアクセスのよさで人気の高尾山。古くから行楽地として栄え、2007年には国際的な観光ガイドで三ツ星評価を獲得。以来、年間300万人が訪れるとも言われる“世界一登山客の多い山”として知られるようになりました。

さらに近年は、ふもとにアパレルショップにミュージアム、テレワークができるカフェや宿泊施設などが続々とオープン。観光地としてだけでなく、都会の喧騒から離れたワーケーションスポットとしても人気が高まっています。

そんな高尾山界隈をナビゲートしてくれるのは、マレーシア出身のコンスタンス・リカさん。10代をアメリカで過ごし18歳で日本に留学。現在は日本の大手代理店のビジュアルコンサルティングチームでディレクターを務めています。高尾山へは、趣味のトレイルランニングを楽しむために頻繁に訪れているのだとか。

「今では趣味が高じて、高尾山から電車で20分ほどのエリアに住んでいます。職場からは少し離れてしまいましたが、自然が豊富で過ごしやすいですし、週末に限らず平日でも気軽に高尾山に行けるのがいいんですよね」

今回の散歩は高尾山の玄関口、京王線高尾山口駅からスタート。まず向かったのは、駅から登山口へと伸びる「もみじ通り」沿いにあるアパレルショップ「BRING CIRCULAR TAKAO(ブリング サーキュラー タカオ)」です。

古民家を改装し2023年にオープンしたこのお店は、「循環する体験を拡張する」をコンセプトに、不要となった服等をリサイクルした再生ポリエステルを素材に使用したアパレルを販売。またカフェも併設され、広々とした店内や店舗の奥のウッドデッキでこだわりのスペシャルティコーヒーを味わうことができます。

「ここはトレイルランニングをしたあとによく来る朝活スポットなんです」と言いながら、コーヒーとおにぎりをオーダーしたコンスタンスさん。席につくと、バッグからノートとペンを取り出しました。

「日本に来て以来、日記を書くことが習慣になっていて。こうして毎朝、前日にあったことを思い出しながら文章や絵をしたためるのが日課になっているんです」

やわらかな朝日が差し込む中、日記帳にペンを走らせながらのモーニング。いつもと変わらない、しかしとびきり贅沢なひとときを満喫して高尾山の登山口へと向かいます。

高尾山には山頂へのルートがいくつもあり、それぞれに難易度や景色が異なります。普段のコンスタンスさんは、道が急峻で難易度の高いルートを選んでトレイルランニングをしているそうですが、今回はリフトで“空中散歩”を楽しみながら中腹にある展望台へ。

リフトを降りてしばらく歩くと、左手の視界が一気に開けました。標高470m付近にある展望スポット「かすみ台展望台」からは、八王子や立川の市街地はもちろん、都心の高層ビル群や東京タワー、さらには相模湾や江ノ島までも一望できるのです。

開放感たっぷりの大パノラマを前に、コンスタンスさんも思わずスマホで写真撮影。しばし眼下に広がる景色を眺めながら、日本に来た当時のことを話してくれました。

アメリカの高校を卒業し、CGアートや映像制作を学ぶために日本へとやってきたコンスタンスさん。来日にあたっては周囲からの反対もあったそうですが、一人になっても頑張れる自信と勇気だけはあったと言います。

「家族や友達が近くにいる環境もいいですが、新しいことにチャレンジするならいっそ、私のことを誰も知らない国に行ったほうがいいのではと考えました。その中でも日本を選んだのは、14歳のときに1カ月ほどホームステイをして、日本のライフスタイルが私に合っていると感じたから。いずれは日本で暮らして自分に合う生き方を探したいと思っていました」

とはいえ、知っている日本語は「こんにちは」と「よろしくお願いします」だけ。何もかもが手探り状態ながら、この思い切った行動がコンスタンスさんにとって大きな転機となります。

「日本行きは私が生まれ変わるためのチャンスでした。『ここからは本当になりたい自分になるんだ』と決意し、アメリカでは踏み出せなかったことにいろいろとチャレンジしました。その中のひとつがトレイルランニングや日記なんです。今の私を見たら、昔の友人たちは『コニーは一体どうしちゃったの?』と驚くんじゃないかな(笑)」

登山だけでなくグルメやパワースポットといった見どころも多い高尾山ですが、その中でも多くの観光客に親しまれている施設が、1971年に開園した「高尾山さる園」。90頭ものニホンザルが暮らし、ボスザルを中心とするサル社会の秩序や習性を飼育員の解説を聞きながら観察できます。

「外国の友達を連れてくると必ず喜ばれるのがここ。餌をあげながら微笑ましいサルの日常を観察したり、集団のヒエラルキーに注目しながらボスを探してみたり。ひとたび見はじめるとつい長居してしまうんですよね」

高尾山散歩はそろそろ折り返し。ケーブルカーでふもとに下り、そのまましばらく歩くとガラス張りのファサードに瓦屋根というモダンな建物が見えてきました。

「高尾599ミュージアム」は、高尾山が誇る多様でユニークな生態系を標本やプロジェクションマッピングといったさまざまな方法で展示している観光施設。登山の心得や四季折々の見どころなど、高尾山の魅力や楽しみ方を発信・共有する拠点にもなっています。

「入館料が無料なので、誰でも気軽に立ち寄ることができます。また併設されているカフェがとても静かで居心地がいいんです。短時間で集中して作業したいときは、ここで仕事をすることもあるんですよ」

普段は3D空間のデザインやUI(ユーザーインターフェイス)の設計などさまざまなクリエイティブに従事しているコンスタンスさん。仕事に生かせるインプットの場として、ミュージアムにはよく訪れるのだとか。

「美術館や博物館、科学館など『館』がつく施設が大好きで(笑)。マレーシアにいたころは野生の動植物がとても身近だったので、こうした展示を見ていると懐かしい気持ちになりますね。私がトレイルランニングにハマって高尾山に通うようになったのも、自然の中に帰ろうとする本能からかもしれません」

次に目指すスポットも、コンスタンスさんにとっては貴重なワーキングスペースのひとつとのこと。ミュージアムから歩いて5分ほどのところにある「タカオネ」です。

高尾山口駅のすぐ目の前という好立地にあるタカオネは、個人旅行だけでなく学校や企業の団体合宿にも対応する宿泊施設。館内にはショップやカフェ、焚き火スペースがあり、宿泊客でなくても利用することができます。

「タカオネには朝7時から18時まで利用できるテレワークプランがあるので、館内でゆっくり仕事ができます。暖かい時期には、緑に囲まれたテラス席で作業をするのが最高。ただ気持ちよすぎてボーッと過ごしてしまうこともあるんですけど(笑)」

普段は仕事での利用がメインというコンスタンスさんですが、この日は焚き火スペースでキャンプファイヤーを体験。冷えた体をじんわりと温めてくれる焚き火を楽しみながら、スモアとアールグレイで優雅なティータイムを堪能しました。

焚き火ブレイクのあとは、この日最後のスポットを目指して国道20号(甲州街道)を北へ。住宅が立ち並ぶ閑静なエリアを歩いていると、コンスタンスさんのウォーキング事情の話題に。聞けば、一度の散歩で4万歩以上も歩くことはざらなのだとか。

「よく歩くのは立川市にある昭和記念公園です。とにかく敷地が広大なので、散策しながらぐるっと1周するとおおよそ2万歩になります。で、私の場合はそれを2周。ちなみに一日で最も歩いたのは山手線一周ウォーキングにチャレンジしたとき。12時間以上歩き続けて、歩数は8万歩を超えていました」

トレイルランニングが趣味なだけに、長距離を歩くこともまったく苦ではなさそうなコンスタンスさん。しかしウォーキングの目的は単なるワークアウトではないようです。

「歩いていて、めずらしい植物などを見つけたら足を止めるようにしています。実際に触ってみて、見た目と手触りにギャップがあったりするとすごく面白い。私の仕事においてはデジタルとアナログをうまく融合させることもテーマのひとつなので、こうしたフィジカルな体験を通じた気づきや発見が貴重なインプットになっているんです」

常にアンテナを張りながら歩くコンスタンスさんが最後に案内してくれたのは、静かな住宅街の中にひっそりと佇む「蕎麦と杜々(そばととと)」です。

高尾山口駅から徒歩15分、営業はお昼のみ。それにもかかわらず、毎朝石臼で自家製粉される香り高いお蕎麦を目当てにやってくる人が絶えません。

「この辺りを歩いているときにたまたま見つけたお店です。その日のお蕎麦が終わると店仕舞いとなってしまうのですが、せっかく高尾山に来たならぜひ足を伸ばしてみてほしいですね」

そう言って温かいお蕎麦と天ぷらに舌鼓を打つコンスタンスさん。お蕎麦はもちろん、地元産の野菜にこだわった天ぷらも絶品。

「最後においしいお蕎麦もいただけて大満足です!」

そう言って笑うコンスタンスさんに、今回の散歩を振り返ってもらいました。

「快晴に恵まれて気持ちのいい散歩でしたね。豊かな自然に恵まれ、季節ごとにいろいろな景色を見せてくれる高尾山は、ウォーキング感覚で気軽に登山ができる貴重な場所でもあります。一方で、おしゃれなカフェや快適なテレワークスペースも充実しているので、登山以外の目的で訪れるのもおすすめ。この散歩を通じて、あらゆる人を受け入れる懐の深さこそが高尾山の魅力なんだと再認識してもらえたらうれしいです」

BRING CIRCULAR TAKAO
住所:東京都八王子市高尾町2219
電話:03-6824-7653

高尾山さる園・野草園
住所:東京都八王子市高尾町2179
電話:042-661-2381

高尾599ミュージアム
住所:東京都八王子市高尾町2435-3
電話:042-665-6688

タカオネ
住所:東京都八王子市高尾町2264
電話:042-662-3955

蕎麦と杜々
住所:東京都八王子市高尾町2031
電話:042-673-5592

PROFILE

コンスタンス・リカ
マレーシア生まれ。幼少期を東南アジアで過ごし、その後アメリカと日本で暮らした経験をもつ。日本では3DCGをはじめとするビジュアルデザイン全般を学び、日本のアニメ制作会社や広告会社に勤務。現在は大手代理店でビジュアルコンサルティングチームのディレクターを務めている。ちなみに7ヶ国語を操るマルチリンガル。言語習得のコツは「その都度“初心者になる”のをためらわない。いきなり教材ではなく子ども向けの絵本などを読むことから始めてみては?」とのこと。ちなみに3ヶ国語が話せるようになると、比較できる言葉や概念が増えるので、より多くの言語を覚えやすくなるのだそう…!
Photo : Kohei Watanabe
Edit+Text : Taro Takayama(Harmonics inc.)