#WELL-BEING 2025.05.27
歩く、話す、見つける、
とっておきの街歩き。
-長崎県壱岐島・原田朋広編(アシックス商事 ホールセール販売本部長)-
※2025年4月時点の取材内容で構成しています。
その街をよく知るナビゲーターがおすすめの散歩コースを紹介しながら、自身のウォーキングスタイルについて語る連載企画「SANPO TALK」。第30回はアシックス商事のホールセール販売本部長を務める原田朋広が、故郷である長崎県の離島、壱岐島をナビゲート。自身が過ごした少年時代の遊び場や甲子園出場に湧いた母校、島民のソウルフードが味わえるお店などをめぐりながら、美しい海に囲まれた離島の魅力に触れていきます。
博多港から高速船で約1時間10分、長崎空港から飛行機で約30分。今回のSANPO TALKは、玄界灘に浮かぶ長崎県の離島、壱岐島(いきのしま)が舞台です。
壱岐といえばこの春、島内に2校しかない高校のうちの1校である「長崎県立壱岐高等学校」が選抜高校野球大会に初出場して話題に。残念ながら初戦で敗退してしまったものの、島の誇りをかけて戦った球児たちの姿に島中が沸き立ちました。
もともと壱岐島は、ウニやブリをはじめとする新鮮な海産物、海水浴やマリンスポーツが楽しめるビーチ、美しい水平線をのぞむ絶景など、海の恵みの宝庫。古くは『古事記』や『魏志倭人伝』といった書物にも登場し、悠久の歴史をしのばせる神社や古墳などが数多く現存していることから“島全体がパワースポット”とも言われています。
そんな壱岐島をナビゲートするのは、アシックス商事 ホールセール販売本部長の原田朋広。生まれも育ちも壱岐島という彼と、島の南西部に位置する郷ノ浦港周辺を歩きます。
スタート地点は、壱岐島の玄関口である郷ノ浦港。港にかかる郷ノ浦大橋のたもとにあるのが、壱岐島の周囲に浮かぶ有人島を巡回する市営船乗り場「フェリーみしま発着所」です。
「両親がここの売店兼切符売り場で働いていたんです。家もすぐそばにあったので、子どもの頃はこのあたりでよく遊んでいました。海に向かってお祭りの太鼓の練習をしたり、漁から戻ってきた漁師さんに魚をもらったり、いろいろな思い出がよみがえってきますね」


懐かしそうに港沿いを歩きながら次に目指したのは、郷ノ浦港を見下ろすように立つ「春一番の塔」。
「春の訪れを告げる風として一般的に定着している『春一番』ですが、この言葉の発祥は壱岐なんですよ」
昔から壱岐では春先に吹く南風を「春一」と呼び、そのあまりの強風を地元の漁師たちはとくに警戒してきたのだそう。
「壱岐ではそんな自然の脅威ともうまく折り合いをつけながら、海の恵みを大切に享受してきたんです」


見晴らしのいい高台から再び港へと下り、飲食店や商店が数多く立ち並ぶ郷ノ浦の市街地へ。懐かしい街並みを歩きながら原田は「昔はもう少し活気があったんですよ」としみじみ。壱岐市の人口はかつて4万人を超えていましたが、現在では2万3000人程度にまで減少しているそう。しかしそんな中で、昔から変わらず営業しているお店があります。

1968年創業の「福寿飯店」は、島民なら知らない人はいないという老舗の中華料理店。もちもちの麺に具だくさんのあんかけをかけた看板メニュー「スペシャル皿うどん(通称「スペ皿」)」は、壱岐島のソウルフードとして愛され続けています。
「うちの皿うどんを食べた子が島を出て、また家族を連れて食べに戻ってきてくれる。何世代にもわたって贔屓にしてくれるのはうれしいですね」と語るのは、初代店主の長女、園田めぐみさん。もちろん原田も創業以来の福寿飯店ファンのひとりです。
「両親が商売で忙しかったこともあり、スペ皿はよく出前で食べていました。子どもの頃に福寿飯店の味を覚えてしまうと、大人になっても染みついて離れないんです」


故郷の味に舌鼓を打ったところで散歩を再開。高級感あるデザインと快適なライド感が特徴の「ペダラ ライドウォーク 2」を履きこなし軽快に歩く原田ですが、意外にも壱岐にいた頃は散歩をしたことがなかったそう。でもその理由は島民ならでは……。
「子どもは野山を駆けたり、海で泳いだり、魚を釣ったりと外で遊び回るのが当たり前でしたし、島の大人たちも漁業や商売など体を動かす仕事をしている人が多かった。だからみんな日常の中で無意識に歩いたり走ったりしていたんです」

高校まで壱岐で過ごした原田は、大学進学を機に福岡へ。アシックス商事の福岡営業所に入社した後は、神戸、東京、再び福岡、神戸とさまざまな勤務地で営業やマーケティングに従事してきました。
「意識して散歩をするようになったのは島を出てからです。知らない土地を理解するには、自分の足で歩いてみるのが一番ですから。都会にはいろいろな人がいるし、お店もたくさんあるし、街並みも変化に富んでいる。だから余計に歩くのが楽しく感じられたんでしょうね」
次に訪れたのは、郷ノ浦港に面した通りにある「長田商店」。壱岐のお土産物の販売のほか、ウニの瓶詰めや干物、海産物の冷凍・冷蔵商品の製造を行っています。
「私の兄とこちらの店主が仲良しで、私自身も島に帰ってくるたびに立ち寄るお店です。長田商店さんは何と言ってもウニが有名なのですが、うちの家族はアジの干物もお気に入り。買って帰るとすごく喜んでくれます」


今回の散歩コースの中で、とりわけ原田が楽しみにしていたのが母校への再訪。長田商店の裏手にある小高い丘の上に立派な校舎と体育館が見えます。


先述のとおり、春の選抜高校野球大会に出場したばかりの長崎県立壱岐高等学校。遡ること40年前、ここの野球部でキャプテンを務めていたのが原田でした。
「当時はとにかく野球に明け暮れていた毎日でした。甘酸っぱい恋の思い出など一切ありません(笑)」
春休みながら、快く訪問を受け入れてくれた教頭の下川拓朗先生も壱岐高校の卒業生。「甲子園でしっかり戦ってきてくれたことは島民の誇り。部員たちも自信を深めて成長できたのではないでしょうか」と目を細めます。
原田が在校していた頃の校舎は建て替えられていましたが、そこかしこにかつての面影は残っていました。原田がふと足を止めたのは、やはり野球部のグラウンドの前。

「ここはほとんど当時のままで残っていますね。この土の上で汗水流して練習した後輩たちが大舞台に立てたことは、私にとっても感慨深いです」
ひとしきり見学を終えて高校を出ると、これから部活に向かう生徒さんたちに遭遇。少しはにかんだ笑顔で「こんにちは!」と挨拶をしてくれる姿にこちらの心も洗われます。

「人見知りは多少あると思いますが、懐に入るとすぐに親しくなれるのが壱岐の人の特徴なんですよ」と原田。
「海に囲まれた島なので、誰もが常にお互いのことを気にし合って、助け合って生きている。こうした思いやりや団結力の強さは、壱岐の島民性として私自身の性格や価値観のルーツになっているんです。それらは、コミュニケーションやチームワークが重要な現在の仕事にも大いに役立っていると感じます」
再び郷ノ浦の市街地に下りて岬へと歩いていると、見えてきたのは大きな公園。少年時代のお気に入りの遊び場だったという「弁天崎公園」です。
「波打ち際まで下りて、貝を獲ったりイソギンチャクを探したりと磯遊びに興じていました。以前はプールもあったはずなんですが……だいぶ様子が変わりましたね」


今ではボルダリングやターザンロープといった多彩な遊具が人気の公園として、地元のファミリーに親しまれているのだそう。時代の流れとともに、島の子どもたちの遊び方も変化しているのかもしれません。
「散歩の締めくくりは壱岐のおいしい海の幸と行きましょう」と、最後に案内してくれたのは、郷ノ浦港のターミナルビルの中にある居酒屋「ひげだるま」。本格的な壱岐グルメがフェリーで島を発つ直前まで楽しめるお店です。
「ここでは新鮮な海の幸はもちろん、壱岐牛のステーキも食べられるんです。壱岐から帰るときには、ここで一杯やりながらフェリーを待つというのが私の定番になっています」
原田はいつも食べているという海鮮丼をオーダー。その日の朝に壱岐で獲れた魚を使うため、丼の中身は日によってさまざまなんだとか。
「今日はヒラマサとタイの丼ですね。魚の鮮度が高いので、他のお店の海鮮丼はもう食べられないです(笑)」


こうして丸一日堪能した壱岐島散歩はフィニッシュ。「でもまだ紹介したい場所はたくさんあるんですよ」と笑う原田に、あらためて壱岐島の魅力を聞いてみました。
「たくさんあるので難しいですね。でもとにかく『来てみれば分かる』ということに尽きます。いろんな表情を見せてくれる海、ゆったりとした時間の流れ、おいしい料理とお酒。実際に訪れて、ひとりでも多くの方に壱岐島の魅力を味わってほしいですね」

【番外編:まだあります! 壱岐の絶景スポット3選】
周囲約168kmもあるという壱岐島。ここでは散歩ではめぐれなかったエリアから、生粋の壱岐っ子の原田が「ここはぜひ行って!」というイチオシ絶景スポットを紹介します。
まずは島中西部、黒崎半島の突端にある「猿岩」。その名のとおり、猿の横顔にそっくりの岩は自然の力だけで形作られたとは思えないほどリアル。高さは45mもあり、近くで見るとなかなかの迫力です。
「初めて壱岐島に来るという人は、必ずここに連れて行きます。愛らしくも堂々とした佇まいで、壱岐島のシンボルとして親しまれているんですよ」


次は、「日本の百名洞」にも選ばれているという「鬼の足跡」です。鬼が踏んだ足跡だとされる巨大な穴は、直径53mで周囲はおよそ110m。また年に2回だけ、玄界灘に沈む夕陽が崖の横穴越しに見られるのだとか。
「壱岐島には鬼にまつわる言い伝えが多く、ここもそれにちなんだ景勝地のひとつです。ちなみにもう片方の足跡は、ここから10kmほど離れた辰ノ島という島にあると言われています」


海の浸食でできた荒々しい景色に続いて、最後に紹介するのは島南東部にある「大浜海水浴場」。美しいエメラルドグリーンの海に、真っ白でサラサラな砂浜。常夏の島と見紛うような光景が目の前に広がります。
「ビーチも壱岐島の自慢のひとつで、夏には島外からたくさんの海水浴客が訪れます。私は家からここまで自転車を漕いで、毎日のように泳いでいました」


番外編の絶景スポット3選はいかがでしたか? ひと口に海と言っても、こんなにもさまざまな表情を見せてくれるのは雄大な自然が残る壱岐島ならでは。実際の迫力と美しさは、みなさんの目と足で確かめてみてください。



郷ノ浦港 フェリーみしま発着所
住所:長崎県壱岐市郷ノ浦町郷ノ浦266-11
電話:0920-47-5187
春一番の塔
住所:長崎県壱岐市郷ノ浦町郷ノ浦403
電話:0920-48-1130(壱岐市観光課)
福寿飯店
住所:長崎県壱岐市郷ノ浦町郷ノ浦131
電話:0920-47-0879
長田商店
住所:長崎県壱岐市郷ノ浦町郷ノ浦122-44
電話:0920-47-0341
長崎県立壱岐高等学校
住所:長崎県壱岐市郷ノ浦町片原触88
弁天崎公園
住所:長崎県壱岐市郷ノ浦町片原触1698-2
電話:0920-48-1111
ひげだるま
住所:長崎県壱岐市郷ノ浦町郷ノ浦281-6 郷ノ浦港ターミナルビル2F
電話:0920-48-1222
PROFILE
1967年、長崎県壱岐市生まれ。1989年に物流部門のアルバイトとしてアシックス商事の福岡営業所に入社。その後、正社員登用され、神戸本社や東京支店で営業やマーケティング業務に従事。現在はホールセール販売本部で本部長を務めている。
Edit+Text : Taro Takayama(Harmonics inc.)